三重県尾鷲市で甘夏の収穫をお手伝い

 ご縁があり、三重県・尾鷲市内にある農園で、甘夏の収穫のお手伝いをさせてもらいました。

 尾鷲市は三重県の南部にある町で、東京からの所要時間は5〜6時間。豊かな海と山々があり、近くには世界遺産の「熊野古道」があります。尾鷲市の伝統産業の一つが甘夏生産で、70年以上、甘夏の生産が大々的に行われてきたそう。近年は、甘夏生産の現場に新しい風が吹いており、有機農法の導入をはじめ、新しい取り組みが次々と採用されています。

尾鷲市では漁業も盛ん。地域の直売所「おわせお魚いちば おとと」には、鮮魚がずらり

 有機農法を導入することで、いくつものメリットが期待できるそうです。まず挙げられるのが、食味の向上。化学肥料・農薬の使用を控え、植物ホルモンを活性化する農法を取り入れると、甘夏がおいしくなるのだとか。また、市場での価格の向上や、担い手不足の解消も期待できるそうです。有機農法で栽培された甘夏は付加価値が高く、慣行農法で栽培された甘夏のおよそ2倍の価格で販売することが可能。甘夏の単価が向上すれば、ビジネスとしての甘夏栽培の魅力も高まり、担い手の増加も期待されるそうです。

 今回、お世話になった農園は、海に面した天満地区にある「Amanatsu Tenma Farm」。園主の日下さんは、2021年に大阪から尾鷲市に移住。以降、地域おこし協力隊の一員として、耕作放棄地となっていた甘夏農園を整備し、栽培に取り組まれてきました。当初の農園は、木々に覆われ、農園だった頃の面影はほとんど残っていない状態。まずは木を一本一本切り倒し、農園を拓く作業から始めたそうです。「木を切る作業で手を使いすぎたために、『ばね指』になってしまったこともありました」と、日下さん。こうした地道な努力が功を奏し、「Amanatsu Tenma Farm」は、甘夏がたわわに実る風光明媚な農園に。

山地にある「Amanatsu Tenma Farm」からは、尾鷲湾と山々が織りなす雄大な景色を望むことができます

 「Amanatsu Tenma Farm」で収穫作業をしながら、日下さんより、甘夏作業にまつわる問題点をうかがいました。まずは、収穫時の問題。甘夏は高さ2〜3mの場所だけでなく高所にも実るため、収穫時は基本的に木に登るそう。高枝切りハサミを長く伸ばして一つ一つ、収穫するという手段もありますが、収穫のスピードがどうしても落ちてしまうため、木に登って一気に収穫するのが一般的です。けれども高所で作業中、足を滑らせて木から落ちれば、大怪我をする可能性もあります。時に“命がけ”であたらなくてはならないのが、甘夏の収穫作業なのです。

収穫した甘夏は、コンテナへ。甘夏がいっぱいに入ったコンテナはとても重い!

 また、収穫後の作業にも難点が。収穫した甘夏は、あらかじめ用意しておいたコンテナへ入れていきます。しばらくするとコンテナは甘夏でいっぱいになるので、別のコンテナを用意し、今度はそちらに甘夏を入れます。この要領で収穫作業を進めていくので、作業が終わる頃、畑には甘夏が入ったコンテナがいくつも。収穫した甘夏は倉庫へ収める必要があるので、まずはコンテナに入った甘夏を運搬用のトラックまで運び、積み込むわけですが、この作業がとても大変。甘夏でいっぱいになったコンテナはずっしりと重く、持ち上げるのにもひと苦労します。この重いコンテナを何度も上げ下げすれば、体に相当な負担がかかるはず。

電動式の運搬機

 「Amanatsu Tenma Farm」では数年前に、電気で動くタイプの運搬車を導入。コツは必要ですが、これを使うと女性でも3つほどのコンテナを一気に運ぶことができます。この運搬車を導入後、畑からトラックまでコンテナを運ぶのがラクになったそう。ただ、一度に3つほどのコンテナしか運べないので圃場とトラックの間を何度も往復しないといけないうえに、トラックの荷台にコンテナを載せる作業や、倉庫にコンテナを運びこむ作業は人力で行っているため、運搬作業が大変であるのは変わりません。

畑には、古いトロッコと専用のレールが残されていました。かつての生産者は、収穫した甘夏をこれで運搬していたよう。残念ながらこのトロッコは壊れており、修理して使おうとすると、1,000万円あるいはそれ以上の費用がかかるそう

 このほかにも、農作業や生産物の販売にまつわる問題をいくつもお聞きし、日本の農業生産者を取り巻く状況の厳しさを痛感しました。当然ながら、食は生きていくうえで欠かせないもの。それを支える農業生産者が、全くもって恵まれない環境にあるというのは、いかがなものか。農業生産者を取り巻くリアルな状況を知れば、きっと誰もがそんなふうに感じるだろうと思います。

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 自宅に帰ってすぐ、「Amanatsu Tenma Farm」の甘夏と甘夏ジュースを購入し、現地から送ってもらいました。甘夏と甘夏ジュースが自宅に届いたのは、都内で今年初となる夏日が観測された頃。夏の訪れを感じさせる陽気のもと、爽やかな味わいと酸味が持ち味の甘夏は、ひときわおいしく感じられました。

 そのまま食べてもおいしいのはもちろん、ほかの食材と合わせておいしくいただけるのも、甘夏の持ち味。レタスやベーコンを合わせてオリーブオイルベースのドレッシングをかけたところ、甘夏の甘味と酸味がほどよく効いた、おいしいサラダが出来上がりました。

柑橘類の皮を自宅で調理したのは初めてでした
グラニュー糖の代わりにてんさい糖を使ったので、茶色っぽいピールに仕上がりましたが、おいしかった

 「Amanatsu Tenma Farm」では、化学肥料や農薬を使わない栽培に取り組んでいるため、甘夏の皮まで安心して食べられます。皮もおいしくいただきたいなぁと考えていた時、ネット上で見つけたのが甘夏ピールのレシピ。きれいに洗った甘夏の皮を茹でた後、ワタを外し、皮を細長くカット。カットした皮を鍋に入れ、砂糖と水を入れて煮詰めて……と、複数の工程が必要なのでちょっと大変でしたが、おいしい甘夏ピールが出来上がりました。甘さのなかに苦味があり、コーヒーのお供にぴったり。

 そして甘夏ジュースは、甘味と酸味に加え、ほどよい苦味やハッカのような清涼感が感じられる、大人のジュース。毎日飲んでも飲み飽きない味わいです。焼酎やウォッカをはじめとするお酒とも相性抜群で、お酒を甘夏ジュースで割って飲むのがマイブームになりました。

 今回、尾鷲市内で宿泊しながら地域の特産を堪能し、農園でお手伝いをさせてもらうなかで、尾鷲市の魅力をいくつも発見できました。海と甘夏畑が織りなす美しい風景も、かけがえのないものとして心の奥底に焼きついたような気がします。また、多くの人に当地や当地の農産物の魅力を知ってもらいたい、農業が持続可能になる方法を求めて考えを巡らせてもらいたい。そんなふうにも思いました。


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